大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)903号 判決

上告代理人弁護士佐藤邦雄の上告理由第一点及び第二点について。

自作農創設特別措置法一五条一項二号により宅地等を買収し得るには、その宅地等が売渡農地の経営に必要な場合に限定されるものと解すべきことは当裁判所の判例とするところである。(昭和二四年(オ)第三二二号、同二六年一二月二八日第二小法廷判決集五巻一三号八四九頁参照)そしてその宅地がその者の農業経営全般即ち従前から経営していた農地と売渡を受けた農地とを合せた全農地の経営に利用せられる場合でも、それだけで直ちに売渡農地の経営に必要であると即断することはできないのであつて、売渡を受けた農地の経営が全農地の経営のうち占める重要さの度合その他の事情からみて、これを附帯買収することにより、耕作農家の地位を安定しようとする法の目的に適合するものと認められる場合に限り、売渡農地の経営に必要であるといえるのである。本件において原判決の確定したところによると、訴外千葉定美が買収農地の売渡を受けたのは畑一畝一歩であり、従前から経営していた小作地は田二反九畝二七歩畑一反七畝歩である。そして同人は本件宅地上に存する間口五間半奥行二間の家屋に家族と共に居住して右田畑の耕作に従事しているのであるが、敷地が狭く外庭は奥行が一間位しかないため畜舎などを建てる余地もなく、収穫物を納める小屋もないので、豆打の作業などは住家の中で行つている状態であること、及び本件宅地から千葉の耕作地までの距離は川を隔て直線で売渡を受けた自作地まで約百間、小作地までは約三十間、但し千葉方から右各耕作地に達するには迂回して橋を渡らなければならないというのであつて、右の如く千葉定美の耕作農地の大部分は小作地であつて売渡を受けた農地が小作地に比して極めて僅少であるから、本件宅地が同人の売渡を受けた農地の経営にも利用されているにしても、同人の耕作農地の全体からみればその重要さの度合は殆んどいうに足りない程度であり、かような場合には特段の事情のない限り本件宅地は売渡農地の経営に必要であるとは認められないのである。然らば右と同一趣旨に出でた原判決は正当である。論旨第一点は最高裁判所の判例を引用し判例違反を主張するが、原判決は何等右判例と牴触するものではないから論旨はすべて採用できない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人弁護士佐藤邦雄の上告理由

第一点 原判決は、最高裁判所の判決と相反する判断をした違法があり、破棄せらるべきものと思料する。

原判決の要旨は「千葉定美が法三条によつて売渡を受けた農地は畑一畝一歩で、右売渡を受けた畑のほかに、田二反九畝二十七歩、畑一反七畝歩を小作していること、千葉は本件宅地上に存する間口五間半奥行二間の家屋に家族と共に居住して右田畑の耕作に従事しているのであるが、敷地が狭く外庭は奥行が一間位しかないため畜舎などを建てる余地もなく、収穫物を納める小屋もないので豆打の作業などは住家の中で行つている状態であること、右宅地から千葉の耕作地までの距離は川を隔て直線で、売渡を受けた自作地までは約百間、小作地までは約三十間であること、以上の事実が認められる。

ところで法第十五条第一項第二号による宅地の買収は、その宅地が自作農となるべき者の売渡を受けるべき農地の利用上必要と認め得ることを要するものと解するのを相当とするのに、千葉定美の耕作田畑の大部分は小作地であつて、今次の農地改革により売渡を受けた農地は、僅かに畑一畝一歩に過ぎないから、本件宅地が同人の売渡を受けた右農地の耕作にも利用されているにしても、同人の耕作農地の全体からみれば殆どいうに足りない程度のものであり、むしろ本件宅地は同人の耕作農地の大半を占める小作地の耕作に利用されているものと認めるべきである。

もし本件宅地の買収申請を相当と認め得るものとするときは、同人の売渡を受けた農地が極めて僅少で耕作農地の大半が従前からの小作地である点からみて、実質的には一般の小作農のために附帯買収を許容すると同じ結果に帰着し、法第十五条の趣意に副わないことになるのみならず、少しも農地の売渡を受けない他の一般自作農又は小作農との間に公平を欠くことになるからである。」というのである。

しかしながら最高裁判所昭和二四年(オ)第五号農地委員会の裁決取消請求事件の判決(判例集第四巻第七号三二五丁)の要旨は「自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号によつて買収される宅地は、必ずしも農地に密接又は従属している必要はなく、農業経営に必要な宅地であれば足りる。」というのであつて、要するに、売渡を受けた農地を耕作するために必要であれば買収ができるという趣旨であつて、その以外の条件を必要としないのである。そして本件に於ては、千葉定美が売渡を受けた農地を耕作するために、本件宅地を必要とすることは、原審認定の事実によつてまことに瞭らかなところであるから、前記最高裁判所の判例に照し、本件宅地の買収計画樹立は適法であるのに、原審が之に反する判断をしたのは、畢竟最高裁判所の判決と相反する判断をした違法があるに外ならないから破棄を免れないものと信ずる。

第二点 原判決は、重大なる法律の解釈を誤つた違法があり、破棄せらるべきものと思料する。

原判決は「千葉定美の売渡を受けた農地が極めて僅少で耕作農地の大半が従前からの小作地である点からみて、一般の小作農のために附帯買収を許容すると同じ結果に帰着し、少しも農地の売渡を受けない他の一般自作農又は小作農との間に公平を欠くことになるから」と判示しているのである。

しかしながら、原判決が説示しているような不公平の問題は、他の法律関係はしばらくおき、農地改革に関するものを拾つてみても、(1)或る小作人は不在地主の農地を小作していたので売渡を受けたが、同一条件の他の小作人は在村地主の小作人であつたために売渡を受けられなかつた。(2)ある小作人は大地主の農地を小作していたので売渡を受けたが、同一条件の他の小作人は小地主の小作人であつたために小作地保有面積の関係上売渡は受けられなかつた。(3)昭和二十年十一月二十四日に小作地を取上げられた小作人は、遡及買収により農地の売渡を受けられるが、同年十一月二十二日に小作地を取上げられた小作人は救済を受ける途がない。等一々数え来つたならば実に枚挙に遑ない程であろう。一つの法律が制定せられ、改正せられ、廃止せられる場合に、そこに幾多の不公平な現象を伴うことは避け得られない。且つ全く止むを得ないことである。況んや法律革命ともいうべき戦後の大改革のときに於ておや。

原判決は「一般の自作農又は小作農のためにも法第十五条第一項と同様な附帯買収を認めることの立法上の当否はもとより別個の問題である」と称しながら、実は前述不公平論を強調していることそれ自体が立法論ではあるまいか。要するに今次農地改革の眼目とするところは、零細なる農民に農地を与え、農業施設を与え、住を与え以てその生活の安定に寄与せんとするにあることはあきらかであるから、立法の趣旨に鑑みるときは、売渡を受けた農地の経営上必要な宅地であるならば、法第十五条第一項第二号によつて買収し得ると解するのが相当であつて、原判決は重大なる法律の解釈を誤つた違法があり破棄せらるべきものと思料する。

以上

第一審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は岩手県東磐井郡奥玉村字川原三十五番の二、宅地二十五坪四合五勺に就いて、被告村農地委員会が昭和二十三年十一月十七日附公告による買収計画及び被告県農地委員会が昭和二十四年四月一日附為した右買収計画に対する訴願棄却の裁決は何れも之を取消す、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として、被告村農地委員会は訴外千葉定美の申請に基き、原告所有の右宅地を自作農創設特別措置法(以下単に法と称す)第十五条第一項第二号により買収計画をたて、昭和二十三年十一月十七日その旨公告したので、原告は之を不服として、異議の申立をしたが、同委員会は之を却下したので、更に訴願したところ、被告県農地委員会は昭和二十四年四月一日訴願棄却の裁決をし、該裁決書は同月二十五日原告に交付された。併し右買収計画は左の理由により違法である。

(一) 法第十五条により買収すべき宅地は法第三条により解放された農地に対し附属関係あることを要するのであつて、このことは法第十五条(昭和二十二年法律第二百四十一号)第一項が宅地等の買収請求権者として「法第三条の規定により買収する農地につき自作農となるべき者、又は当該農地につき所有権その他の権利を有する者」と規定し、買収される農地の所有者とその農地の売渡を受ける者と同列に規定しあること、又買収される宅地等の物件の種類及び範囲に就て、同項第一号が「法第三条の規定により買収する農地の、」と規定し、同第二号が「法第三号の規定により買収する農地に、」と規定しあるにより明かである。然るに法第三条により解放され訴外千葉定美が売渡を受けた農地は岩手県東磐井郡奥玉村字宿下百五番の一、及び同所同番の二の二筆の畑合計一畝一歩である。而して、右売渡農地の前所有者は原告ではなく右宅地とはその所有者を異にし、所在字名が異なり、又両地間には奥玉村を貫流する奥玉川の主流が通じ、その距離は数町あり、而も右両地間にはその利用上何等の関連もなく両地の所有者が異つていても何等の不便痛痒もない。従つて右宅地は前示売渡農地に対し何等附属関係がない。

(二) 訴外千葉定美の全耕作面積は右売渡農地一畝一歩と原告所有の小作地同県同郡同村同字十六番の一外三筆の田計二反九畝二十七歩、畑二筆計一反七畝、合計四反六畝二十七歩だけである。此の如く売渡農地が全耕地の僅に二パーセントに過ぎない。

然るに前示の如く、被告村農地委員会は右宅地につき法第十五条第一項第二号により買収計画をたて、被告県農地委員会は之を維持する裁決をしたのは違法であるから之が取消を求める旨述べ、被告等主張に対し、訴外千葉定美が専業農家であること、本件宅地上に右定美の居住せる訴外千葉信一所有の家屋存し、右家屋は既に法第十五条により買収せられたことは認めるが、同訴外人の耕作地と右宅地との距離は否認する。尚右宅地を同訴外人の父が原告の祖父から賃借したのでなく訴外千葉はじめが賃借したものであると述べた(立証省略)。

被告両名訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実中、原告主張の如く被告村農地委員会が訴外千葉定美の請求により原告主張の宅地を法第十五条第一項第二号により買収計画をたて、昭和二十三年十一月十七日その旨の公告をしたこと、右に対し原告より異議申立をしたが被告村農地委員会が之を却下し、更に訴願したのに対し被告県農地委員会が昭和二十四年四月一日之を棄却し、該裁決書が同月二十五日原告に交付されたこと、及び原告主張の農地が法第三条により解放され千葉定美が売渡を受け、右売渡農地の前所有者は原告でないことは何れも認めるが、其の他の事実は争う。法第十五条は法第三条による買収農地と法第十五条による買収宅地とが同一所有者であることを要する旨の規定もないし、右両地が民法に所謂主物従物と言うような厳格な附属関係を要求している訳でもない。又法第三条による買収農地と法第十五条による買収宅地との間に一定の比率を必要としている訳でもない。法第十五条の趣旨とするところは、農地改革によつて農民に衣食住の安定を得せしめんとするにあるのであるから、法第三条によつて買収した農地の売渡を受け自作農となる者が、その売渡農地又はその売渡農地及びその他の農地につき耕作の業務を営む為に必要な居住宅地として、他から(解放農地の前所有者と同一所有者であると否とを問わない)賃貸借又は使用貸借により借用している宅地で、村農地委員会が買収を相当と認めたものは法第十五条の規定により買収し得るものと解すべきであつて、このことは同法施行令第二十四条第一項第二号からも窺い得るところである。然るところ訴外千葉定美は専業農家で前示買受農地の外田二反九畝二十七歩、畑一反七畝、計四反六畝二十七歩を小作しているのであつて、右宅地と、前示買受農地との距離は直線で約百間、迂廻して約百二、三十間、右小作地と右宅地との距離は直線で約三十間、迂廻して約七十間に過ぎず、且つ同訴外人は右宅地を右全農地の耕作に利用しているのであるから、法第十五条により買収し得るものと言うべきである。尚右宅地は同訴外人の父が原告の祖父から賃借し右賃借関係は同訴外人及び原告間に承継されたもので、該宅地上には同訴外人の現に居住せる訴外千葉信一所有の家屋が存し、該家屋は既に法第十五条により買収され、該買収処分は確定したものである。仮に右宅地の賃借人が訴外千葉はじめであつたとしても、同人は昭和二十五年三月二十九日死亡し訴外千葉定美が相続により右はじめの全権利義務を承継したものであると附陳した(立証省略)。

第二審判決の主文、事実および理由

一、主  文

原判決を取消す。

被控訴人奥玉村農地委員会が奥玉村字上川原三十五番の二、宅地二十五坪四合五勺について、昭和二十三年十一月十七日公告した買収計画を取消す。

被控訴人岩手県農地委員会が昭和二十四年四月一日附で右宅地買収計画に対する訴願を棄却した裁決を取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、控訴代理人において、

(一)、昭和二十五年三月二十九日、訴外千葉はじめの死亡に基く相続により千葉定美が本件宅地の賃借権を承継したことは争わない。

(二)、要するに本件宅地の買収は自作農創設特別措置法第十五条第一項に定める相当と認めるべき場合にあたらないのである。と述べたほか、原判決事実及び証拠関係の摘示と同じであるから、こゝにこれを引用する。

三、理  由

訴外千葉定美が控訴人から賃借していた奥玉村字上川原三十五番の二、宅地二十五坪四合五勺について、被控訴人奥玉村農地委員会(村農委と略称する)が、自作農創設特別措置法(以下法と略称する)第十五条第一項第二号により買収計画をたて、昭和二十三年十一月十七日これを公告したこと、これに対し控訴人から異議申立をしたが却下され、更に被控訴人岩手県農地委員会(以下県農委と略称する)に訴願したが棄却され、その裁決書が昭和二十四年四月二十五日控訴人に交付されたことは当事者間に争がない。

よつて右買収計画の適否につき按ずるに、千葉定美が法第三条により買収された農地で売渡を受けたのは、控訴人以外の者の所有であつた奥玉村字宿下百五番の一畑十九歩及び同番の二畑十二歩の二筆、合計畑一畝一歩であることは当事者間に争がなく、成立に争ない甲第一号証、第二号証の一、二、原審証人千葉定美の証言を綜合すると、千葉定美は右売渡を受けた畑のほかに、控訴人から賃借している同村字宿下十六番イの一田二畝二十歩外三筆、合計田二反九畝二十七歩、同村字宿下百十二番ノ四畑一反歩外一筆、合計畑一反七畝歩を小作していること、千葉は本件宅地上に存する間口五間半奥行二間の家屋に家族と共に居住して右田畑の耕作に従事しているのであるが、敷地が狭く外庭は奥行が一間位しかないため畜舎などを建てる余地もなく、収穫物を納める小屋もないので、豆打の作業などは住家の中で行つている状態であること、右宅地から千葉の耕作地までの距離は川を隔て直線で、売渡を受けた自作地までは約百間、小作地までは約三十間(但し千葉方から右各耕作地に達するには迂廻して橋を渡らなければならない)であること、以上の事実が認められる。

ところで、法第十五条第一項第二号による宅地の買収申請があつた場合に、その申請を受けた市町村農地委員会が申請を相当と認めるかどうかは、同条の法意に照し具体的事案に即して判断すべきであることはいうまでもない。しかして法第十五条は特に法第三条により買収する農地若しくは第十六条第一項の命令で定める農地に就き自作農となるべき者に対してのみ、所謂附帯買収の申請を認め、その他の一般自作農又は小作農に対しては右の申請を許していないのであつて、この点からみると法第十五条第一項第二号による宅地の買収申請についても、これを相当と認めてその宅地につき買収計画をたてるためには、その宅地が自作農となるべき者の売渡を受けるべき農地の利用上必要と認め得ることを要するものと解するを相当とする。然るに本件においては、前段に認定したように、千葉定美の耕作田畑の大部分は小作地であつて、今次の農地解放により売渡を受けた農地は僅かに畑一畝一歩に過ぎないから、本件宅地が同人の売渡を受けた右農地の耕作にも利用されているにしても、同人の耕作農地の全体からみれば殆んどいうに足りない程度のものであり、むしろ本件宅地は同人の耕作農地の大半を占める小作地の耕作に利用されているものと認めるべきである。かような場合には、例えば、本件宅地が千葉の売渡を受けた農地と密接不離の関係にあつて、その農地の利用上不可欠とするというような特段の事情の存する場合は格別――本件においてはかかる特段の事情は認められない――さもない限り宅地買収の申請を相当と認め得ないものと解すべきである。蓋し千葉定美の農業経営の上からみて本件宅地が同人の全耕作農地の利用上必要であるにしても、もしその故に本件宅地の買収申請を相当と認め得るものとするときは、同人の売渡を受けた農地が極めて僅少で、耕作農地の大半が従前からの小作地である点からみて実質的には一般の小作農のために附帯買収を許容すると同じ結果に帰着し、法第十五条の趣意に副わないことになるのみならず、少しも農地の売渡を受けない他の一般自作農又は小作農との間に公平を欠くことになるからである。(一般の自作農又は小作農のためにも法第十五条第一項と同様な附帯買収を認めることの立法上の当否はもとより別個の問題である。)

されば、千葉定美の申請を相当なりとして村農委の定めた本件宅地の買収計画は違法であり、これを是認して控訴人の訴願を棄却した県農委の裁決も違法とせざるを得ないから、これが取消を求める控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべきである。

右と異る見地に立つ原判決は失当で本件控訴は理由があるから民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に則り主文のとおり判決する。

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